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4

青い蝶を求め、何度も何度もこの森にはいったのは、
そんなに遠い日の事ではなかった様な気がする。
あの時は、まるで馬鹿みたいにこの森を右往左往した。
それでも、全力で走ってこんなに簡単に息が切れるような事はなかったし、
ペース配分も、それなりに出来ていた様な気がする。

今はもう、この森に蝶はいない。
誰も、最強の武器なんて物は必要とはしなくなってしまったから・・・・・・

普通に生活する人々にとって、
武器を強化する為の「何だかわからんもの」なんてものは
所詮、「何だかわからんもの」に過ぎないのだ。


今、彼が目指している場所は、二人にとって純粋な、思い出の場所でもある。
浮いているのか、それともきちんと足がついているのか、
自分でもさっぱりわからない、空中遊泳さながらの、深い湖。
髪の痛みを気にしなくてもいい、塩素の入ってない、プール。


シン滅亡後、エボンの教えから解き放たれた
スピラには、工業化による、高度経済成長の波が訪れていた。
昼でも夜でも、工場は休むことなく動きつづけ
人々は浮かれ、夜でもネオンが光り輝く。
そう言えば、キマリは今年、ガガゼドの野鳥を守る会の会長に就任したといっていた。

霊峰と呼ばれ、人々が入りにくいその様な場所であってさえ、
自然は「そこにあるもの」から「守るべきもの」へと変化し始めているのである。

同時に、キマリのように「守る為に活動する者」でさえ、
その一方で、リュックから習得した「盗む」「ぶんどる」の技術をフルに活用し、
荒稼ぎをした上で、夜のスピラではキャバレンジャーの名をほしいままにしているという。
先日、遊びにきたルールーがそんなキマリを見たと言って愚痴をこぼしていた。

とは言え、そのルールーでさえも、今やスピラの高官や
財政界、裏の世界のボスたちが絶えることなく訪れるという
高級クラブ、「ルール―の世界」のママである。
その立場を利用し、裏でスピラを牛耳り、
言葉一つで、何十万ギルという金を動かす。
魔法こそ使わないが、まさに魔性の女。
ルール―の呪文、といえば今は泣く子も黙るパルプンテなのだ、と
これはリュックが言っていた。

まさに、スピラは、眠らない世界、となったのだ。

そんなスピラに、今でも新鮮な空気と水がある場所は、たった一つしかない。
彼は、そこを目指して走っていた。
  1. 2000/10/09(月) 02:56:04|
  2. 【物語】FFXのお話
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5

「お構いなく。出勤前に、少し寄っただけだから。」

いかにも血色の悪そうな紫色の唇から白い煙を吐き出すと、
黒ずくめのおばさ・・・もとい、ルールーは言った。
その傍らで、彼女は黙ってツナの空き缶を差し出す。
空き缶には少し残ってしまったツナが乾いたままでこびりついている。

昔はちゃんと、洗って捨てる子だったのに・・・・・

食べ残しのこびりついたツナ缶に
決して幸せとは言えない彼女の現状を見たようで
改めてルールーは少し悲しくなった。
しかし、それを口には出すこともできずに、
ただ黙ったまま差し出されたツナ缶に灰を落とす。
そしてそのまま、煙草を口にくわえる。

まるで、言葉が出てこない、言い訳をするかのように。


彼女もまた、ただ黙ってそれを見ていた。
人が煙草を吸っているのを見ると、自分も吸いたくなるのだが
表向きに彼女は「煙草が吸えない」事になっている。
ましてやこの時間から二人で煙草を吸えば
室内に煙がこもってどうしようもない。
どうしたって、残り香でばれてしまうだろう。
彼女の夫は、彼女が煙草を吸うことを快くは思っていなかった。

「で、どうなの。最近。うまく言ってるの?」

悩んでいたわりには単刀直入だが、
ようやくかけるべき言葉が見つかったのか、
それともこの重苦しい沈黙に耐えられなくなったのか、
再び煙をくゆらせながらルールーが口を開いた。

「え・・・?」

どうしてそんな事を聞かれるのかさっぱりわからない、
というように彼女はソファに座ったルールーを見上げる。
その目は、どこか虚ろだ。

窓から差し込む西日が逆行となって、
彼女からルール―の表情は見えなかったが、
おそらく、今のは失言だったのだろう。
取り繕う様に、ルールーは話題を変えた。

「私もね、そろそろ店の方は若い子たちに任せて、
隠居しようと思ってるの。いったでしょ?
今ね、お酒と占いの店をやってるのよ。
結構評判なのよ。よく当たるって。」

クラブ「ルール―の世界」は今やスピラ全土に知れ渡る
有名高級クラブである。
クラブのママであるルールーはその類まれな
ミステリアス、アンド ファンタスティックな容姿を武器に
お色気たっぷりに酒を出しながら
時折予言めいた事を発言するという方法で
スピラ中の高給官僚どもをめろめろにした。
おかげさまで、ルールーは儲かっている。

自分の老後が安泰となると、
他人の事が気にかかるものである。

特に妹のような存在、ユウナの事となれば
それは尚更。

だから時折、こうして「ついで」を装っては
ユウナを訪ね、様子をうかがっているのであった。

しかし、今のユウナに対して、
ルールーはかけるべき言葉を持たない。

変わってしまった全ての物から目を背け、
「過去」という重い鎖にがんじがらめになってしまっているユウナには。

今のユウナが泣くことはない。
しかし同時に無理して笑うことすらない。
ただぼんやりと行過ぎていく景色を眺めているだけ。

裏を返せば、そう言うユウナだって
「変わってしまった」のであったが
本人はそれに気がついているのかいないのか。
気がついていても、どうしようもないのかもしれない。

だから、ルールーもまた、そんなユウナに
なんと声をかけていいのやら
さっぱりわからないでいるのであった。

「そうだ。そしたらまた旅でもしようか。ユウナ。
今度はゆっくりと・・・またビサイドからはじめて…ね?
ビサイドにはリュックとワッカがいるから。
知ってる?リュックったらこーんなに太っちゃって、
いまじゃすっかり肝っ玉母さんって感じよ。
こないだ7人目が生まれたんだって。」

無理して明るい話題を出すのは気持が悪い。
ましてや黒い魔女と怖れられるルールーがそれをするのは、
違う意味でなかなかの迫力だ。

「それは・・おめでとうございます。」

他に言うべき言葉も見つからず、ユウナはとりあえずそう言った。

こんな時、本当に自分は無力だと思う。
あの時だって、もしザナルカンドからあいつがやってこなかったら、
ユウナは今、生きてはいなかったかもしれないのだ。
だけど、人々が口にするその奇跡に、
ユウナはがんじがらめになってしまっている。
またもや黙ってしまったユウナを見やり、
ルールーは小さくため息をついて立ちあがった。
当たり障りのない会話を繰り返しながら
玄関先までくると、ルールーは少し真剣な顔をしてユウナを見た。

「人は、かわるものなんだよ。ユウナ。」

その言葉にいつもと違うなにかを感じ
ユウナもまた、ルールーを見上げた。

「私達は、変わらないスピラを否定して
ここまで来たんじゃなかったの。
あの時、誰かが祈り子になって、シンを倒していたら、
スピラはなにも変わらなかったかも知れない。
あんな「奇跡」なんて起こることもなく
短いナギ説を、二人は普通に幸せに過ごしたかもしれない。
だけど、私たちは誰かが死んでぬるま湯のような生活を
送るよりも、生きて変わっていくことを選んだ。
あの時ユウナ、言ったじゃない。
『悲しくても、生きます。』って。…忘れちゃった?」


       *              


そうか。あの黒ずくめのおばさ…もとい、あれは、
ルールーだったのか。

「きゃっ。」

彼の背中に、思いっきり顔をぶつけて、彼女は立ち止まった。
いつの間にか鬱蒼と茂っていた木がなくなり、
明るい場所に出ていた。
それが、水の反射によるものだと気がついたのは、
彼が手を離し、ゆっくりと歩き始めてからだった。

  1. 2000/10/08(日) 03:02:46|
  2. 【物語】FFXのお話
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6

泉は、以前訪れた時同様に、不思議な光を反射させ
目の前を明るく照らし出していた。
シンが消え、変化を受け入れたと同時に
変わっていったスピラの中で、彼にはそこだけが、
以前と変わらぬままそこにあるかのように思えた。

いや、実際には何一つ変わってないのかもしれない。
というより、変化は当然あるべきもので、
ただ、以前のスピラがあまりにも変化を拒否していたが為に、
変化というものに敏感すぎる、それだけのことかもしれない。
以前だって変化はしていたのだ。
ただ、それに拒否反応を示すあまりに、
気付かないほどの変化しか
認められていなかった、そういうことなのだ。

あの時、彼は、しゃがみこんで泉を見つめる彼女を目指して歩いた。
今、その彼女は彼の後ろを数歩と離れない距離を置いて歩いている。

ハッピーエンド。

彼らの冒険は、そう称された。
実際に、シンが滅亡し、奇跡が起こったあの時。
二人は笑顔で再会し、二人がこれから歩もうとする道は
希望に光り輝いて見えたものだ。

人々は、彼らの再会を夢だ奇跡だああほっぺたをつねってくれ痛いじゃないか馬鹿やろー、と喜び合い、ついでに人々の希望までをも彼らに押し付けた。
ちょうど、彼女がシンを倒すための召喚士として旅をしていた、あの頃のように。
しかし、今度の旅はシンを倒すための旅ではなかった。
シンという、普遍の脅威などではなく、二人にとってはお互いが、
二人の続いていく関係が、長い、旅となったのである。

そしてそれは、スピラが変わっていくように、当然、変化した。

変化は、いい時もあれば、悪い時もある。
結果として、二人の心を離して行く事もある。

披露宴の祝辞で、ワッカが言った。

「人生は、長い旅路です。」と。

「長い旅を二人が手を取り合い、舵を漕ぎ
時には荒波を超え、力をあわせて超えていく。
それが結婚というものです。」と。

そして更に

「人生は、河の流れです。」と続けた。

結局人生ってなんなんだ、と彼は思ったが、言わないでおいた。

幸せだったから。

どうでもよかったのである。
しかし、今となってみてそれは的を得ていたなあと思うのだ。
荒波が来れば、船は押しつぶされることもある。
彼はブリッツの選手で、サーフィンをかじったことがあるが、
稲村ジェーンを乗りこなした事はない。
だけど、誰も彼を責めたりはしない。
稲村ジェーンは、武の映画の話だから、と笑って許してくれる。
しかし、彼らの船が、人生の長い旅路で
つぶされそうになった時、笑って許してくれる人はいなかった。
少なくとも、彼女はそう思い込んでいたし、
何よりも、彼女自身がそれを許そうとはしなかった。

つぶされてもいいんだと。
道を、外してしまってもいいんだと。

彼らの再会に愛と希望の物語と強い思いの奇跡を見た人々は
彼らの結婚が破綻することなどありえないと強く信じていたし
その期待は彼女をがんじがらめにした。

だから彼女はすべての変化に目をつぶり
決して今の彼を見ようとはしなかったのだ。
破綻した生活の中で常に放心状態の妻を抱えた
彼の頭髪は人工植毛に頼る以外手立てはなくなり、
更に、そんな彼を受け入れられずに彼女はより強く目をつぶった。

それは、倒しても一定期間をおいて復活するシンに
おびえながら生活していたあのころのスピラより、ずっとたちが悪かった。

結局、スピラ大好きっ子の彼女には、スピラの人々を
裏切る自分、というのに耐えられなかったのである。
それはもはや、裏切りでもなんでもないはずなのだが。
人々が勝手に期待して、彼らに物語を託したに過ぎないにも関わらず、
スピラのために、その命を捨てようとまでした彼女は、
今度はスピラの人々の期待という妄想で、彼女自身を壊そうとしていた。

もうずいぶん昔。
実際にはそんなに昔ではないけれど、
シンがまだいて、彼女がその旅に迷っていたあの時。
泉に入り、彼女が泣いたあの時。
彼は彼女を抱きしめたいと思った。
そして、大丈夫だよ、と伝えたいと思った。
伝えたいけど、何が大丈夫なのかわからなくて、
そこを突っ込まれたら困るなあ、と思った。
困るなあと思ったし、言葉にもできなかったので行動に移すしかなかった。
実際、彼女の顔を見たら、抱きしめるどころじゃ済まなくなったので
ボロが出なくて、ラッキー、とも思った。

ただ、そんなに泣かなくても大丈夫だと。
自分が信じた道と、思いを。
大切だと思っていた物からの、事実上の裏切りを。
そのために、大事なものをなくしてしまった怒りを。
その中で、道を見失い、それでも道を踏み外せないのだと泣く彼女を。
彼はただ、抱きしめたかった。
それしか伝える術はないように思えたから。
大丈夫なのだ。と。
誰も、あなたを責めはしないと。
少なくとも、俺はあなたの味方でいる、と。

  1. 2000/10/07(土) 03:08:42|
  2. 【物語】FFXのお話
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